津地方裁判所 平成9年(行ウ)6号 判決 2000年6月08日
原告
大橋剛
外三名
右四名訴訟代理人弁護士
松葉謙三
同
出口崇
被告
北川正恭
外二名
右三名訴訟代理人弁護士
楠井嘉行
右訴訟復代理人弁護士
木村良夫
同
北薗太
同
川端康成
被告
株式会社熊谷組
右代表者代表取締役
熊谷太一郎
右訴訟代理人弁護士
小嶋正己
同
加藤保三
被告
日本土建株式会社
右代表者代表取締役
田村憲司
右訴訟代理人弁護士
倉田嚴圓
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 被告北川正恭は、三重県に対し、二四億〇一四〇万円及びこれに対する平成九年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告原田正司は、三重県に対し、一億三一〇〇万円及びこれに対する平成九年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告白井顕一は、三重県に対し、一億七八四〇万円及びこれに対する平成九年五月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告株式会社熊谷組は、三重県に対し、一四億二四〇〇万円及びこれに対する平成九年五月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告日本土建株式会社は、三重県に対し、六億三八六〇万円及びこれに対する平成九年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、三重県の住民が、三重県又は三重県企業庁が発注する公共工事の入札において、入札参加業者らが談合を行って三重県に損害を与えたと主張し、入札参加業者ら、知事、副知事及び土木部長に対し、三重県に代位して損害賠償を求めた住民訴訟である。
一 前提となるべき事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実)
1(一) 原告らは、三重県の住民である。
(二) 平成七年から、被告北川正恭(以下「被告北川」という。)は三重県知事、被告原田正司(以下「被告原田」という。)は三重県副知事、被告白井顕一(以下「被告白井」という。)は三重県土木部長である(以下三名を「被告北川ら」ともいう。)。
(三) 被告株式会社熊谷組(以下「被告熊谷組」という。)は、大手建設会社であり、被告日本土建株式会社(以下「被告日本土建」という。)は、三重県内最大の建設会社である(以上の二社を「被告業者ら」ともいう。)。
2(一) 三重県知事は、三重県の請負工事の本来的契約締結権者であり、入札制度を運用する最高責任者である。請負代金額三億円以上(三重県土木部所管の建築工事を除く建設工事については五億円以上)の契約締結の決裁権者である。
(二) 三重県副知事は、知事を補佐する地位にあり、平成八年三月までは、土木部発注の請負代金額二億円以上三億円未満(平成八年四月以降は、建築工事を除き四億円以上五億円未満)の請負契約締結の決裁権者である。
(三) 三重県土木部長は、土木部の工事請負契約の入札制度を運用する責任者であり、土木部発注の請負工事の請負代金額一億円以上二億円未満(平成八年四月以降は、建築工事を除き三億円以上四億円未満)の請負契約締結の決裁権者である。
3 三重県は、別紙目録記載1ないし12のとおり入札を行い、その結果に基づいて、落札者に対し、各工事を発注した。三重県企業庁は、別紙目録記載13の入札を行い、工事を発注した。
4 被告熊谷組及び被告日本土建は、熊谷・奥村・日本土建特定建設工事共同企業体を構成して、別紙目録記載3の工事の入札に参加し、落札した。
被告熊谷組は、熊谷・佐藤・東海土建特定建設工事共同企業体を構成して、別紙目録記載1の工事の入札に参加し、落札した。
被告日本土建は、別紙目録記載8ないし11及び13の工事の入札に参加した。
5 原告らは、平成九年二月二一日、別紙目録記載の各工事の入札について談合が行われたと主張して、必要な措置を求めて住民監査請求を行った(以下「本件監査請求」という。)。
二 被告北川らの本案前の抗弁
1 住民訴訟により損害賠償請求をするためには、少なくとも、当該職員によって財務会計上の行為が完了した後でなければならない。仮に違法な財務会計上の行為が存したとしても、右完了までの間は是正の機会があるし、また、損害額が未確定であるからである。
本件については、原告らが監査請求を行った平成九年二月二一日当時、別紙目録記載7及び9の工事以外のものは、支払いが未了であり、財務会計行為が完了していないというべきである。中には、請負契約すら未締結であったものも含まれている。
財務会計行為が未了の間は、公金の支払いの差止め請求、法律関係不存在確認請求等ができることは格別、当該職員に対する損害賠償請求はできないのであるから、別紙目録記載7及び9の工事を除く工事についての本訴請求は不適法である。
2 監査請求期間の起算日は、当該財務会計行為のあった日又は終わった日であるから、本件においては契約締結日である。
しかるに、別紙目録記載4の工事については、平成七年一〇月三日に契約が締結されており、本件監査請求は契約締結日から一年を経過しているから、本訴請求は不適法である。
なお、本件の場合の財務会計行為は、議会の議決を経ているのであるから秘密裡になされた行為ではなく、右監査請求期間の経過に正当な理由はない。
三 本案前の抗弁に関する原告らの反論
1 請負契約の締結によって、三重県の請負代金債務は発生しており、これだけで損害が発生しているというべきであるから、損害賠償を求めることができる。
なお、監査請求時点で請負契約が未締結であったとしても、監査結果が出された時点では、既に請負契約が成立していたのであるから、右問題は治癒された。
2 別紙目録記載4の工事の入札は、平成七年八月一〇日に行われた。原告代理人が、右入札に関して談合情報があったことを知ったのは、三重県に情報公開請求し、現実に公開された平成八年一二月一九日であり、それまでにマスコミ報道に接したことはない。原告らは、平成九年二月二一日に本件監査請求を行ったから、監査請求期間を経過したことについて正当な理由がある。
四 本案に関する原告らの主張
1 談合
(一) ゼネコン各社の情報収集担当者は、地方公共団体の発注情報を収集し、営業活動する。そして、発注先について業者間で話し合って調整し、最終的な落札予定者を決定する。
落札予定者は、地方公共団体の担当者に会い、指名されるよう依頼するとともに、落札予定者のみが積算をして、予定価格を推定し、担当者に探りを入れる。
これに基づいて、落札予定者は、自社の入札価格を決定し、他の入札参加者にこれを知らせ、より高い価格で入札するよう連絡する。
(二) このように、全国ゼネコン各社では、名古屋支店が東海地方の拠点となって、区域内の官公庁の発注する工事を落札するについて、営業部長クラスが相互に連絡を取り合って、恒常的、慢性的に談合を繰り返し、本命業者が予定価格にきわめて近い金額で落札することにより公共工事を請け負ってきた。
例えば、鹿島建設株式会社及び清水建設株式会社は、名古屋市の新南陽工場新築工事の入札において、談合を行ったが、平成七年一〇月当時、談合をやめたとは供述しておらず、談合を続けていることが明らかである。
被告熊谷組においてのみ談合に加わっていないということはあり得ない。
(三) 被告日本土建は、三重県内最大の建設会社であり、全国ゼネコン各社と共同企業体を構成するなどして収益を挙げている。
例えば、名古屋市の新南陽工場新築工事の談合事件において、落札予定の幹事会社が変更されると、下位の落札予定者は、新しく本命となった幹事会社と共同企業体を組んでいる。すなわち、上位会社同士、下位会社同士で、それぞれ落札予定者を決定して共同企業体を構成している。
これと同様に、被告日本土建も、談合により落札予定者となっていたから、被告熊谷組と共同企業体を組んだものと考えられる。
2 談合の存在
別紙目録記載の各工事入札については、次のとおりの間接事実から、談合が行われていることが明らかである。
(一) 談合情報があり、そのとおりに落札されている。
別紙目録記載1の工事については、新聞社等に対し、事前に落札業者を名指しした談合情報があったが、三重県は、参加業者に対して事情聴取し、談合がないことを確認したとして入札を実施した。二回目の入札の結果、情報どおり熊谷・佐藤・東海土建特定建設工事共同企業体が落札した。
別紙目録記載3の工事については、事前に落札業者を名指しした談合情報が流れたが、調査なく入札が実施された。情報どおり、熊谷・奥村・日本土建特定建設工事共同企業体が落札した。
別紙目録記載4の工事については、同じ日に実施された七つの入札につき、予め落札業者を特定した談合情報があり、一つを除き情報どおりの特定共同企業体が落札した。
(二) 工事入札のうち入札が二回実施されたもののほとんどは、一回目に一位入札した業者が二回目以降も一位入札して落札している(以下、この現象を「一位不動」という。)。このような事例が九九パーセントにものぼることは、談合が行われていることの証拠である。三重県が発注した平成七、八年度の工事のうち、入札が二回実施されたものは九八件であり、そのうち一位不動とならなかった例外は一件のみであった。また、二回目以降の入札価格に差がほとんどないこと、二位以下の順位の変動が大きいことが認められる。
別紙目録記載の工事のうちでは、一回の入札で落札者が定まった別紙目録記載3の工事以外のものは、すべて二回入札が行われ、一位不動の現象が見られた。
なお、一回の入札で決着した場合も、これはたまたま予定価格の読みが当たっていたことを意味するにすぎないから、同様に談合が行われていると推定することができる。
(三) 地方公共団体が定めた予定価格に対する落札価格の割合を求めると、約九九パーセントとなるものと、七五ないし八〇パーセントとなるものとに二極分化する。なお、予定価格が判明した例のみならず、予定価格が公表されない場合も、二回目の入札が行われれば、予定価格は一回目の一位入札価格と二回目の一位入札価格の間にあることから、一定の精度でこれを推定することができ、いずれにおいても右の現象が見られる。
談合が行われた入札では、落札価格が予定価格ぎりぎりに近づき、逆に、談合が行われなかった入札では、最低制限価格付近で自由競争となり、最低制限価格に近い価格で落札されている。
別紙目録記載の工事では、予定価格の97.5ないし一〇〇パーセントで落札されており、これは、これらの入札で談合が行われたことの証左である。
(四) なお、地方公共団体の住民が、公共工事の入札について談合が行われたことを主張して住民訴訟を提起した場合、原告となる住民は、談合の現場に立ち会ったわけではなく、これを具体的に主張立証するのは不可能である。
これに対し、被告となる入札参加業者としては、談合をしていないという反証をすることがさほど困難ではない。
したがって、証拠への接近度を考慮し、原告となる住民としては、入札参加業者が入札以前に本命業者を決め、本命業者が落札できるようより高い価格で入札したということを、かなり高い可能性で立証することができれば足りると解すべきである。
3 損害
(一) 地方公共団体の財政及び公金支出は、公共目的のため公正な手続を経て必要最小限の支出で最大の効果をあげるようにし、効率的なものでなければならない。
しかし、三重県は、別紙目録記載1ないし12の工事について、談合により高くなった落札価格の契約金額で工事請負契約を締結し、三重県企業庁は、同目録記載13の工事について、談合により高くなった落札価格で工事請負契約を締結した。
(二) 談合が行われたことによる損害は、公正な自由競争により形成されたであろう落札価格と談合が行われたことによる現実の落札価格の差額である。
公正な自由競争により形成されたであろう落札価格は、現実に存在しなかった価格であり、これを直接推計するのは困難である。落札価格は、入札において公正な自由競争が行われれば、少なくとも通常の公正な利益が見込める価格まで下がると考えられ、これは現実に存在した市場価格(実勢価格)を手がかりとして算出すべきである。
地方公共団体は、積算を行って予定価格を決定しているが、この予定価格は、実勢価格よりかなり高く設定されている。これは、積算価格の基準や基礎資料が、実勢価格を正しく反映しておらず不当に高いからである。
談合がされなかったと考えられる全国の一般競争入札の例では、最低制限価格前後で争われており、最低制限価格より少し高い価格で落札されている。三重県内において、談合が成立しなかった入札では、最低制限価格前後での争いになっている。これらの事実からすれば、公正な自由競争が行われる限り、最低制限価格前後で争われると推定される。
したがって、入札談合による発注者の損害額は、落札価格と最低制限価格との差額であると推認すべきである。
別紙目録記載の各入札では、落札価格は予定価格をわずかに下回る値であった。通常、最低制限価格は予定価格の二〇ないし三三パーセント下に設定されるので、各入札による三重県の損害は、落札価格の二〇パーセントと推認することができる。
4 被告らの責任
(一) 三重県は、設計金額二一億六〇〇〇万円以上の入札について一般競争入札を採用しているが、制限付き一般競争入札であり、制限が強いため、入札参加業者が容易に特定される。その他の入札はすべて指名競争入札であり、工事現場の近くの業者だけを指名し、これを公表していた。
入札参加者が容易に特定できない制度にすれば、談合をなくすことができる。しかし、三重県は、形だけの改革を行い、真に談合を防止できる制度にしようとはしない。三重県の入札担当者は、談合情報が的中することが多いこと、複数回入札では二回目の入札額が一回目の入札額より大幅に下がり、しかも一位入札者が変わらないこと、落札価格が予定価格ぎりぎりであることがほとんどであり、さもなくば最低制限価格ぎりぎりであること、予定価格を訊きに来た業者が必ず落札することなどを総合して、談合が蔓延していることが明らかであるにもかかわらず、故意に談合の存在を否定して契約を締結している。
のみならず、工事の予定価格を本命業者が的確に知るには、当該発注予定部署の職員による情報が必要であって、前記のように談合が蔓延している事実と照らし合わせると、県職員の容認又は加担すら疑われる状況である。
したがって、三重県の契約担当者は、談合が不可能又は困難な制度を実施する義務があるにもかかわらず、談合がきわめて容易に行える入札制度を実施し、漫然と請負契約を締結しており、これは、職務上の義務違反である。
(二)(1) 三重県知事である被告北川は、別紙目録記載1ないし5の工事契約については、契約締結権を有する当該職員として、同目録記載6ないし12の工事契約については、決裁権を有する部下の違法な財務会計行為の指揮監督を違法に怠ったので当該職員として、損害を賠償すべき責任があり、その額は、二四億〇一四〇万円となる。
(2) 三重県副知事である被告原田は、三重県が発注する公共工事の入札では談合が蔓延していることを知っていながら、知事や土木部長とともに、談合ができない制度を確立し実施する義務があるのにこれを怠り、また、別紙目録記載6ないし8の入札による請負契約締結の決裁をし、三重県に損害を与えた。被告原田が賠償すべき金額としては、一億三一〇〇万円となる。
(3) 三重県土木部長である被告白井は、三重県が発注する公共工事の入札において談合が蔓延していることを十分に知っていながら、知事や副知事とともに談合ができない制度を確立し実施する義務があるのにこれを怠り、また、別紙目録記載12の入札による請負契約締結の決裁をするとともに、同目録記載9ないし11の入札による契約締結について、部下が行う決裁の指揮監督を怠った。したがって、当該職員として、同目録記載12の工事についての損害を、相手方として同目録記載9ないし11の工事についての損害を賠償すべき責任があり、その合計額は、一億七八四〇万円となる。
(三)(1) 被告熊谷組は、別紙目録記載1及び3の入札に関して談合をし、三重県に一四億二四〇〇万円の損害を与えたから、不法行為に基づき、これを賠償すべき責任がある。
(2) 被告日本土建は、別紙目録3、8ないし11及び13の入札について談合をし、三重県に六億三八六〇万円の損害を与えたから、不法行為に基づきこれを賠償すべき責任がある。
五 被告業者らの反論
1 談合について
被告業者らは、別紙目録記載の工事入札において、原告ら主張の談合をしたことはない。
(一) 別紙目録記載の各工事入札は、実績やノウハウ又は地の利を有していたなどの業者が、それぞれ落札している。自由な競争の結果、比較優位性のある業者が最も低い入札価格で入札することができ、その結果、落札することができたというだけのことであり、原告ら主張のような談合の結果ではない。
また、被告業者らが構成した共同企業体が落札した別紙目録記載3の工事入札は、一般競争入札であり、入札参加者が特定できないのであるから、被告業者らはいずれも談合することが不可能である。このような共同企業体の場合、組合の代表者となる構成員の意向により組み合わせが決まるものであり、原告ら主張のように、上位会社、下位会社同士でそれぞれ本命を決定して共同企業体を組むというものではない。なお、右共同企業体の代表者は被告熊谷組であり、被告日本土建は、最終的な入札価格は大手である被告熊谷組に委任してあり、談合できる余地はなかった。
(二) 別紙目録記載1及び3の工事についての談合情報は、誰がいつどこでどのように話し合いをしたかについて具体性を欠いている。マスコミから寄せられた伝聞のものであり、ニュースソースも明確でない。
同目録記載1の工事についての談合情報は、共同企業体の構成員について客観的事実と相違し、信憑性に欠ける。入札価額も異なっており、また、具体性に欠ける。
三重県は、情報に接したため、入札参加者に対して事情聴取を行い、誓約書を徴求した。また、三重県から公正取引委員会に通報されたが、処分はなにもなかった。三重県議会は、本件入札に基づく請負契約について議決を行っている。被告熊谷組は、高茶屋病院の旧建物を建設した実績があることから、工事価額の積算に当たり、他の業者よりも優位に応札できたことは明らかであって、談合情報は虚偽の通報である可能性もあるというべきである。
また、別紙目録記載3の工事についての談合情報も、ニュースソースを明らかにしないものであり、被告熊谷組の部長が入札金額を指示したというのは明らかに虚偽である。本件についても誓約書が徴求され、三重県議会の議決を経て契約が締結されている。
(三) 原告ら主張の一位不動という現象が生じるのは、談合を証するものではない。
二回目の入札では、一回目の最低入札価格を下回らなければならない。しかし、一回目から最低の入札価格をつけることのできた比較優位性のある業者は、二回目以降の入札において、他の業者と同等の利益の縮減をしても依然として低い価格をつけることができるというだけである。
(四) 落札価格が予定価格に近かったとしても、談合があったことの証拠にはならない。
工事の予定価格は、工事目的物の範囲、施工条件や必要諸数量、工事の施工方法を勘案し、最も妥当性があると考えられる標準的な施工方法を想定し、仕様書、設計書等に示された契約内容に基づいて標準的な業者が施工する場合に必要と思われる適正な費用を予め推測し算出するという積算によって決定される。三重県の積算は、公表された資料や公表されていない値を用いて行われており、裁量的な歩切りもあるため、入札参加者が予定価格を推測した結果に接近するが必ずしも一致しない。
なお、最低制限価格は、予定価格の三分の二から三分の四までの範囲内で裁量的に定められるため、入札参加者が推測するのは困難である。
被告業者らは、自らの施工費用と利潤を見込んで積算を行い、これが予定価格の枠内に納まるように修正して入札価格を定めている。
予定価格が相当程度の精度をもって推定できる以上、入札参加者がそれぞれ経済合理性に則って入札すれば、談合がなくても予定価格近辺に入札価格が集中するのは当然である。運良く予定価格の範囲内に入ったもののうち、最も低い者が落札するのであるから、予定価格の九九パーセント台で落札されていることは談合の証明にはならない。
なお、原告らは、落札率の二極分化を主張するが、最低制限価格付近の競争があるのは、採算を度外視した赤字受注の結果である。したがって、落札率九九パーセント台の入札がすべて談合であると結論することはできない。
2 損害について
競争入札妨害罪の保護法益は、第一義的には、国家又は公共団体が執行する競売や入札が公正に行われるべきことである。競争入札は、公正な工事に対する適正な価格を目的とするものであり、競争入札によって受ける発注者の経済的利益は、公正な工事を適正な価格で施工されることに尽きる。
この際、予定価格は、発注者側から見た適正な価格の上限として算出したものであり、最低制限価格は、発注者側から見た適正な価格の下限である。予定価格の制限の範囲内の落札金額は、多寡にかかわらず適正な価格の範囲内にあるから、仮に談合がされて予定価格と落札金額との差額が相対的に小さかったとしても、それは発注者が被った反射的な不利益にすぎず、逆に差額が大きかったとしてもそれは発注者の得た反射的利益にすぎない。
したがって、このような利益は、不法行為法による救済を受けるだけの適格性がないというべきである。
なお、原告らは、想定上の落札価格を問うが、いわゆる出血入札のごとき経済合理性を無視した叩き合いの結果としての落札価格は、公正な自由競争によって形成される落札価格とは異なるものであるから、原告らは、公正な自由競争によって形成される落札価格を個別具体的に主張立証すべきである。
六 被告北川らの反論
1 原告ら主張の談合の存在及び被告北川らの責任は否認する。
2 原告らの被告北川らに対する請求は立法論に類するものであり、かつ、三重県がこれまでに入札制度の改善を行ってきたことを全く無視するものである。
すなわち、三重県では、三重県が発注する公共工事の請負契約において、より良質な工事を確保し、かつ入札手続の透明性、客観性、競争性を高めるため、国の中央建設業審議会の建議に準拠して、入札・契約制度の改善策を実施してきた。
入札方式については、一般競争入札、公募型指名競争入札を導入し、従来からの指名競争入札も改善してきた。
不正行為の防止策として、完成保証人制度を廃止し、新たな履行保証制度を導入し、不正を行った業者へのペナルティを強化した。
談合情報に対しては、談合情報対応マニュアルを制定し、談合情報があり談合の事実が確認できない場合であっても、入札直前に実施する抽選により入札参加者を絞り込む措置を試行している。
また、一定の工事について、工事費内訳書の提出を義務づけている。
3 別紙目録記載の工事のうち、談合情報があったものについての具体的な対応は、次のとおりである。
(一) 別紙目録記載1の工事
平成八年一一月八日、一一日、二〇日及び同年一二月五日、三重県に対し、談合情報が寄せられたため、同月九日総務部公正入札調査委員会を開催し、三重県建設工事等の談合情報対応マニュアルに基づき、入札参加者からの事情聴取等を行うことを決め、同月一〇日、一一日、競争参加資格の確認を受けたすべての共同企業体から事情聴取を行い、同月一一日、総務部公正入札調査委員会を開催して検討したが、談合行為等の事実は確認できなかった。
平成八年一二月一二日、同旨の談合情報が寄せられたが、予定どおり入札を行って結果を見ることとされた。
同月一三日、工事内訳書を提出させ、内容を審査したが、談合行為等の事実は確認できなかった。さらに、参加のすべての共同企業体から誓約書を徴求し、入札を実施した結果、熊谷・佐藤・東海土建特定建設工事共同企業体が落札し、三重県建設工事等の談合情報対応マニュアルに基づき、同月一八日、公正取引委員会に通報を行い、同月一九日、工事請負契約を締結した。
(二) 別紙目録記載3の工事
平成九年一月一六日入札が執行されたが、翌日、談合情報に係る新聞報道がされたので、同日、報道のあった新聞社記者から談合情報の内容を聴取した。
同月二〇日、土木部公正入札調査委員会を開催し、三重県建設工事等の談合情報対応マニュアルに基づき、公正取引委員会への通報、入札参加者からの事情聴取の実施等を決定した。
同月二四日、入札に参加したすべての特定建設工事共同企業体から事情聴取し、工事費内訳書を提出させて内容を調査したが、談合行為等の事実は確認できなかった。
指名した一一の特定建設工事共同企業体の構成員から、誓約書を徴求した。
平成九年二月二〇日仮契約を締結し、三月二一日本契約を締結した。
(三) 別紙目録記載4の工事
平成七年八月一〇日、右工事について入札が執行されたが、同日、郵便で三重県土木部長宛に談合に関する通報があった。
同月一一日、土木部公正入札調査委員会を開催し、三重県建設工事等の談合情報対応マニュアルに基づき、公正取引委員会への通報、入札参加者からの事情聴取の実施等を決定した。
同月一五日、指名した一一の特定建設工事共同企業体から事情聴取を実施し、工事内訳書を提出させ、内容を審査したが、談合行為等の事実は確認できなかった。
指名した一一の特定建設工事共同企業体から誓約書を徴求した。
平成七年八月二一日仮契約を締結し、同年一〇月三日本契約を締結した。
第三 当裁判所の判断
一 本案前の抗弁について
1 財務会計行為の完了について
被告北川らは、財務会計上の行為が完了した後でなければ、住民訴訟により損害賠償請求をすることが許されないと主張する。
この点、住民訴訟制度が地方公共団体の適正な財務会計処理を図る目的をもつことからして、およそ地方公共団体に損害を生じ得ないような財務会計行為を住民訴訟の対象とすることはできず、そのような住民訴訟は不適法ということができる。しかし、原告らの被告北川らに対する本件請求は、入札参加者らが談合し、そのため、被告北川らが三重県の職員として行った請負契約の締結が違法性を帯び、三重県に損害が生じたとして、損害賠償を求めるものであり、これが住民訴訟として許されないと解すべき理由はない。したがって、現実の損害発生の有無は、本案の請求原因の問題となるものと解される。
なお、被告北川らは、本件監査請求時点を取り上げて、請負契約の締結又は代金の支出が未了であったことを主張するが、普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の職員について、違法又は不当な契約の締結又は公金の支出があり、あるいはこれが相当の確実さをもって予測される場合には、必要な措置を求めて監査請求を行うことができるのであるから、本件監査請求が不適法であるということもできない。
2 監査請求期間の制限について
(一) 普通地方公共団体の職員の財務会計上の行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としている監査請求については、右怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準として監査請求期間を適用すべきものと解するのが相当である。
本件監査請求は、甲第一号証によれば、直接には、三重県が入札参加者ら及び三重県職員らに対して損害賠償請求権を行使しない事実をもって財産の管理を怠る事実とするものであるが、前記のとおり、この請求権は、職員らの請負契約の締結という支出負担行為を発生原因とするから、右行為のあった日又は終わった日を基準として監査請求期間が適用されるものと解すべきである。
すると、前記前提となるべき事実記載のとおり、原告らが本件監査請求を行ったのは平成九年二月二一日であるから、そのうち、別紙目録記載4及び13の工事に関する部分については、監査請求期間経過後にされた監査請求であるというべきである。
(二) 次に、監査請求期間経過後に監査請求がされたことについて、正当な理由があるかどうかについて検討する。当該財務会計行為が秘密裡にされた場合において、右正当な理由は、特段の事情のない限り、普通地方公共団体の住民が、相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか、また、当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断するのが相当である。
甲第七九号証の1、2及び弁論の全趣旨によれば、原告ら代理人が別紙目録記載4の工事について三重県に談合情報が寄せられていたことを知ったのは、情報公開を受けた平成八年一二月一九日であることが認められ、このほか、別紙目録記載4及び13の工事について、談合があったことを疑わせる報道等があったことを認めるに足りる証拠はない。
すると、談合行為は秘密裡にされることが通常であることから、別紙目録記載4及び13の工事に関する請負契約について、原告ら住民が相当の注意力をもって調査しても、これが談合に基づいて締結された違法なものであったとの合理的疑いをもつことはできなかったというべきである。したがって、これらの工事に関する損害賠償請求について本件監査請求が監査請求期間経過後にされたことには正当な理由があり、本件監査請求は適法であると解すべきである。
(三) 以上によれば、原告らの本件訴えは、適法な監査請求を前置しており、適法である。
二 談合行為の存否について
1 まず、本件においては、談合行為の存在を直接証明する証拠は見当たらない。
そこで、間接事実を総合することによって談合行為の存在を推認することができるか否かを検討する。
甲第一号証、第二号証の1ないし13、第三号証、第二〇号証の1ないし11、第六二、第六三、第七五号証、第一一四号証の1ないし13、第一一五号証、乙イ第三号証、第八号証の1ないし3、第一一号証、第一二号証の1ないし13、第一九号証、第二三ないし第八八号証、第九三ないし第一一六号証、証人大久保弘延、証人太田章、証人天野幸夫、証人尾田文彦の各証言及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。
(一)(1) 別紙目録記載1の工事については、平成八年一二月一三日、一般競争入札が行われ、一三共同企業体が参加し、二回目の入札で、熊谷・佐藤・東海土建特定建設工事共同企業体が入札額五〇億二〇〇〇万円で落札した。予定価格(入札書比較価格)は、五〇億二七〇七万一〇〇〇円であった(落札価格の予定価格に対する比率99.86パーセント)。
入札に先立って、同年一一月八日、一一日、二〇日、一二月五日、一二日、報道関係者から三重県に談合情報が寄せられた。当初は、被告熊谷組、鈴木組及び東海土建の共同企業体が五五億ないし六〇億円で落札するというもの、参加資格確認申請書受付後は、被告熊谷組、佐藤工業、日本土建又は被告熊谷組、佐藤工業、東海土建の共同企業体の組み合わせについての問い合わせがあり、その後、情報提供者を秘匿したまま、被告熊谷組、佐藤工業、東海土建が落札するとか、落札金額が五三億ないし五六億円とかの情報が寄せられた。また、入札直前には、落札金額が五二億三二〇〇万ないし五二億八六〇〇万円との情報があった。
三重県は、一二月九日、公正入札調査委員会を開催し、同月一〇日及び一一日、入札参加予定者から事情聴取を行ったが、いずれも談合をしていないとの回答であり、結局、全参加者から誓約書を徴求して、入札を執行した。
なお、被告熊谷組は、高茶屋病院の旧建物の建設、機械設備、空調設備等の工事を施工したことがある業者である。
(2) 別紙目録記載2の工事については、平成八年一二月一三日、入札が行われ、一四共同企業体が参加し、二回目の入札で、新日空・須賀・三交特定建設工事共同企業体が一七億五〇〇〇万円で落札した。予定価格は一七億六六〇〇万八〇〇〇円であった(落札価格の予定価格に対する比率99.09パーセント)。
(3) 別紙目録記載3の工事については、平成九年一月一六日、一般競争入札が行われ、一一共同企業体が参加し、一回目の入札で、熊谷・奥村・日本土建特定建設工事共同企業体が二一億円で落札した。予定価格は二一億一五〇五万円であった(落札価格の予定価格に対する比率99.29パーセント)。
入札執行の翌日である一月一七日、事前に新聞社が入手していた情報どおりの共同企業体が落札したとの新聞報道が三紙あった。
同日、三重県が新聞社から聴取を行ったところ、被告熊谷組、奥村・被告日本土建の共同企業体が落札するなどの内容であったが、情報源は明らかにならなかった。一月二〇日、公正入札調査委員会が開催され、その決定に従って、二四日、入札に参加した共同企業体の構成員である全業者から事情聴取を行うとともに、誓約書を徴求したが、いずれの業者も談合を否定した。
(4) 別紙目録記載4の工事については、平成七年八月一〇日、意向確認型指名競争入札が行われ、一一共同企業体が参加し、二回目の入札で、三井・叶特定建設工事共同企業体が七億九〇〇〇万円で落札した。予定価格は七億九八三五万円であった(落札価格の予定価格に対する比率98.95パーセント)。
三重県では、平成七年八月一〇日に入札が執行された工事が七件あったが、その一部について、同年七月一九日、落札する共同企業体を名指しした談合情報が寄せられ、八月一〇日の入札執行後、右七件に関し、落札する共同企業体を指摘する情報が郵便で届いた。七件のうち、六件について、情報と入札結果とが合致していた。
翌日、公正入札調査委員会が開催され、別紙目録記載4の工事については、八月一五日、入札に参加した各共同企業体から事情聴取を行ったが、いずれも談合を否定したため、誓約書を徴求した。
(5) 別紙目録記載5の工事については、平成八年五月一七日、入札が行われ、一一共同企業体が参加し、二回目の入札で、東急・池田土木特定建設工事共同企業体が八億円で落札した。予定価格は八億一〇四〇万円であった(落札価格の予定価格に対する比率98.72パーセント)。
(6) 別紙目録記載6の工事については、平成八年三月一二日、入札が行われ、一〇業者が参加し、二回目の入札で、中井土木株式会社が二億三二〇〇万円で落札した。予定価格は二億三三六〇万円であった(落札価格の予定価格に対する比率99.32パーセント)。
(7) 別紙目録記載7の工事については、平成八年三月二六日、入札が行われ、一〇業者が参加し、二回目の入札で、株式会社創成建設が二億二〇〇〇万円で落札した。予定価格は二億二四五〇万円であった(落札価格の予定価格に対する比率98.00パーセント)。
(8) 別紙目録記載8の工事については、平成八年三月二一日、入札が行われ、一〇業者が参加し、二回目の入札で、株式会社土生組が二億〇三〇〇万円で落札した。予定価格は二億〇三七二万円であった(落札価格の予定価格に対する比率99.65パーセント)。
(9) 別紙目録記載9の工事については、平成八年八月九日、入札が行われ、一〇業者が参加し、二回目の入札で、宮崎建設工業株式会社が二億一五〇〇万円で落札した。予定価格は二億二〇〇〇万円であった(落札価格の予定価格に対する比率97.73パーセント)。
(10) 別紙目録記載10の工事については、平成八年九月二八日、入札が行われ、一〇業者が参加し、二回目の入札で、五洋建設株式会社三重営業所が二億三〇〇〇万円で落札した。予定価格は二億三〇〇〇万円であった(落札価格の予定価格に対する比率一〇〇パーセント)。
(11) 別紙目録記載11の工事については、平成八年一〇月九日、入札が行われ、一〇業者が参加し、二回目の入札で、佐伯建設工業株式会社三重営業所が二億六〇〇〇万円で落札した。予定価格は二億六〇九三万九〇〇〇円であった(落札価格の予定価格に対する比率99.64パーセント)。
(12) 別紙目録記載12の工事については、平成八年三月一三日、入札が行われ、一〇業者が参加し、二回目の入札で、株式会社堀池組が一億八七〇〇万円で落札した。予定価格は一億八七八六万円であった(落札価格の予定価格に対する比率99.54パーセント)。
(13) 別紙目録記載13の工事については、平成八年一月一一日、入札が行われ、一〇業者が参加し、二回目の入札で、河芸建設株式会社が一億八五〇〇万円で落札した。予定価格は一億八六一〇万円であった(落札価格の予定価格に対する比率99.41パーセント)。
(二) 以上の入札のうち、別紙目録3の工事以外のものは、入札回数が二回になっており、いずれにおいても、落札者が一回目の入札でも最低価格を入札した。その他の入札参加者の順位は、一回目と二回目とで変動があるものが多い。
(三) 入開札の仕組みは、入札参加者が一堂に会して入札するところ、一回目の入札において予定価格以下の入札があれば落札するが、落札がない場合には、一回目の入札のうち最低入札価格を公表し、その直後に二回目の入札を実施することになっており、以下落札に至るまで同様に入開札が繰り返される。
(四) 有限会社吉住建設の実質的経営者吉住薫は、三重県久居市発注の下水道工事の入札について談合を行ったとの事実について捜査機関から取調べを受けた際、平成八年度の入札について、三重県が発注した工事もほとんど談合して高額で落札していたと述べた。しかし、有限会社吉住建設は、別紙目録記載1ないし13の工事入札に参加していない。
他方、有限会社吉建の代表取締役吉田仁見は、同様に久居市発注の下水道工事の入札について談合を行ったことについて取調べを受けた際、三重県発注の工事については談合していない旨述べていた。
2 以上の各事実をもとにして検討すると、まず、事前に談合情報があり、その内容のとおりに落札された場合、その内容如何によっては、入札参加者らの間で落札予定者を予め定め、入札価格を指示するといった談合行為があったのではないかとの疑念を生じ得るということができる。しかしながら、本件においては、別紙目録1、3及び4の工事入札について事前の談合情報があったものの、その内容は前記認定にとどまるものであり、落札予定者を摘示する程度で、談合行為の具体的な摘示に欠け、情報提供者も秘匿されてその正確性を検証することができないなど、入札参加者らが談合行為を否定していることに鑑みれば、これらの談合情報のみによっては、談合行為があったことを認めるに足りない。
次に、原告らの主張のように談合行為があった場合、複数回の入札で最低価格入札者に変動がないこととなることはあり得ると考えられる。また、談合の目的は高額で落札することにあろうから、落札予定者は、最高制限価格の機能をもつ予定価格に落札価格をできるだけ近づけたいと考えるであろう。しかし、談合行為が存在しない場合でも、業者の企業規模、経験、得意分野、工事現場への遠近、材料仕入れの巧拙等の客観的条件により価格競争力が異なり、又は当該工事に対する執着等の主観的な落札への意欲の多寡があり、これらに秀でた業者が一回目及び二回目の入札の双方で最低価格を入札して落札する可能性がある。前記の入開札の仕組みからして、二回目以降の入札では一回目よりも入札価格のばらつきの幅が減少することがあり得るが、その場合であっても、価格競争力や意欲により、その最も勝れた業者がいずれの入札でも最低価格で入札する結果になる可能性を否定できない。また、談合行為の有無にかかわらず、一般的に入札参加者は高額での落札を望むから、落札価格が予定価格に近いこと自体が談合の存在を示すわけではない。すなわち、最低価格入札者が変わらないとか、落札価格が予定価格に近いということは、談合行為があったとすればこれと矛盾しないというにとどまるのであって、それゆえに、これらの現象から翻ってその入札が談合行為によるものであったと推認することはできない。以上の間接事実を総合しても、原告ら主張の談合の事実の存在を推認することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、入札参加者が原告ら主張の談合行為をして落札価格を不当につり上げていたと認めることができない以上、三重県が損害を被ったということもできず、被告らが三重県に対して損害賠償すべき義務があるということはできない。
三 結論
以上のとおり、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとする。
(裁判長裁判官・山川悦男、裁判官・増田周三、裁判官・永山倫代)
別紙目録<省略>